至極の和風パンデミック!!
漫画実写化映画紹介、二作目の作品はこちら。
ビッグコミックスピリッツで2009年〜2017年まで連載されていた人気漫画の実写化。
2016年4月23日に公開。公開前から海外の映画祭などで受賞。
原作ファンのみならず、映画通からの評価も高い作品。
あらすじ
漫画家アシスタントとしてパッとしない日々を送る、35歳の鈴木英雄(大泉洋)。そんな彼の恋人が、人間を凶暴に変貌させるウイルスに感染して襲い掛かってくる。慌てて趣味の射撃で所持する散弾銃を手に外に飛び出す英雄だが、街はZQNと呼ばれる感染者であふれていた。出会った女子高生・早狩比呂美(有村架純)と逃げるが、彼女は歯のない赤ん坊のZQNにかまれて半分ZQN半分人間という状態に。比呂美を連れてショッピングモールに逃げ込んだ英雄は、そこで藪(長澤まさみ)という勝気な看護師と顔を合わせる。
予告
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【原作】
単行本:全22巻
ジャンル:サスペンスホラー
ポイント:ゾンビ物では1.2を争う人気漫画。
冴えない中年男が、ある日終わりを迎えた日本で生き抜くサバイバルストーリー。
本作のゾンビはただのゾンビではなく「ZQN」(ゾキュン)と呼ばれる、元人間だったなにか。
DQNからモジったのかな?
売れない漫画家の冴えない日々が延々と綴られる1巻の、ラスト数ページは伝説。
ゾンビ物と知らずに読んだ当時の衝撃はプライスレス。またあんな漫画体験をしたいです
【出演者】
鈴木英雄:大泉洋
この映画は1人の中年男性が「英雄」になるお話ですが、この人は既に北海道の英雄ですね。伝説的ローカル番組の顔も、今ではすっかり日本映画界に欠かせない存在に。
コメディリリーフから主役まで、幅広く演じられています。
早狩比呂美:有村架純
毎年大作に出演し、順調にキャリアを重ねています。私が好きな作品にはよくこの人が出てる。
伊浦:吉沢悠
初めて拝見しましたが、存在感を発揮してましたね。ハマり役だったと思います
サンゴ:岡田義徳
「名脇役」という名にふさわしい方。映画好きでなくても、「なにかで見たことある!」という方多いのでは。この方が出てると画面に安心感が生まれますね
てっこ:片瀬那奈
イメージの割に出演作が少ない女優。
キャリアも長く、出番が少なくてもしっかり存在感を示す演技は流石。
薮:長澤まさみ
2004年公開「世界の中心で、愛をさけぶ」で日本中を虜にした後、2011年公開「モテキ」でこれまでとは違った役柄で再び日本中を虜にした日本を代表する美女。
今年は「マスカレードホテル」「キングダム」「コンフィデンスマンJP」の3作に出演し、それぞれ違うキャラクターを好演。
大物女優という看板が板についてきましたね。
今作ではエンドクレジットを務める。
監督:佐藤信介
2011年公開「GANTZ」で名を馳せ、近年は「
デスノート Light up the NEW world」「いぬやしき」「BLEACH」「キングダム」など、漫画実写化作品を多く手がけています。漫画実写化と言えば佐藤信介、といってもおかしくない。
日本映画らしからぬ、スケールの大きなアクションが特徴。
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【この映画の(個人的)注目ポイント】
- 日常→パンデミックの緩急
- ZQNがちゃんと怖いか
- 秀雄の発砲お披露目シーン
それではまず感想から
世界よ、これが邦画だ!!
日本映画史に残るジェットコースタームービー
【ストーリー】
起:漫画アシスタントをしている鈴木英雄(35)はなかなか連載が決まらない漫画家でクレー射撃が趣味。
しがない毎日を過ごしており、同棲中の彼女と
も上手くいっていない。そんな日々が続くかと思われたが…
承:複数の人間が突如、ゾンビのような生命体(ZQN)に変わり果て、混乱の渦となった東京で英雄は偶然出会った女子高生、比呂美と共に逃走することになる。
転:安息地、富士山に向かう途中でショッピングモールに立ち寄る英雄と比呂美だったが、そこでは生き残った人間たちで一つの「社会」が形成されていた。
生き残った人間たちに虐げられていた英雄は、ZQNの住処であるモール内への食料調達へ向かうことに。その結果、大軍のZQNに襲われる事態になってしまう。
結:逃走時に御守りとして持ち出したクレー射撃用の銃でZQNの大軍を全滅させた英雄。
守りたい者のために奮闘した彼の姿は、名前に違わぬ正に英雄(ヒーロー)だった。
【良かった点】
実写映画のみならず、日本映画の歴史に名を残したといっても良い今作。
全編通して良かった点ばかりなのですが、漫画の実写化という観点で、特に良かったと感じた所を挙げていきたいと思います。
ゾンビがしっかり怖い
単純ですが、劇中に出てくるゾンビがちゃんと怖い。まず1番最初に登場する第1号ゾンビが片瀬那奈さん。
みなさん片瀬那奈がゾンビ役を演じると聞いて、どんなゾンビを想像しますか?
おそらくこんな感じなのでは…
私も鑑賞前は、「はいはい、原作と違ってなんちゃってゾンビなんでしょ?名前も売れてる片瀬那奈だし」
なんて思ってました。
さて、それでは今作で片瀬那奈はどんなゾンビ姿を披露したでしょう。
そらがこちら
はい。この時点(開始17分)でこの映画は勝ちです。
顔を灰色にしたり、血が出てたり…なんて甘っちょろい造形では無く、血管は浮き出て、目はおかしな方向を向いてる。一目見て「あぁ、この人はもう人間じゃないんだ」と思わせるビジュアルを日本映画で、しかも漫画実写化で見られるとは。
出てくるゾンビがみんな怖くて、鑑賞後の帰り道ですれ違う人が襲ってくるんじゃないかとビクビクしてしまうほどでした。(マジ)
個人的な意見ですが、対象が国レベル・世界レベルにまで及ぶホラー物やパニック物(シンゴジラなど)は、トラブルが起こる前の日常を映す描写がとても大きな役割を持っていると思っています。
なんて事ない平和な日常を見せられるからこそ、変貌した世界にワクワクするというもの。
原作では本格的にゾンビ漫画になるのは2巻以降で、中途でさりげなく仄めかす要素はあるものの1巻は丸々主人公の日常描写に費やしています。
原作1巻発売当初話題になったのもそれが理由の一つでした。
連載漫画ならではの表現ですが、映画化した今作でもパンデミックまでのタメができているのが大きな評価点です。
時間で言えば15分ほどなのですが、主人公の行動範囲を職場・家に絞る事で「彼女と上手くいっていない冴えない男の日常」感が絶妙に描写できていました。
そんな中で、テレビでは奇怪なニュースが流れていたり、夜道に怪しい人物が歩いていたり、戦闘機が飛んでいたり…など水面下でヤバい事が起きてる感もしっかり伝わってきて「タメ」の部分で飽きさせない工夫もされています。
前半部の急転直下のジェットコースター展開
前述の片瀬那奈ゾンビを退けた後、いよいよ日常がブッ壊れます。
彼女がZQNになったこと、殺めてしまったことに動揺しながら鈴木英雄(スズキヒデオ 以下、英雄)は家から離れるのですが、動揺もつかの間、既にパンデミックは起きていて道行く先にZQNが徘徊しています。
パニックになった英雄は交差点のある大通りに逃げるのですが、そこにはZQNから逃げる大勢の人間。
一本道の住宅街から広い大通りに出ると、一斉に逃げ惑う数百人の市民、黒煙を吹くビルが。
ここのカットが最&高です!!
室内→住宅街→大通り
ゾンビ登場ポイントが狭い場所から広い所へ。
その相乗効果もあり、広い画で大勢の人が逃げるカットは絶大なインパクトがあります。
直感的に「あ、日本終わったわ」と感じてしまうこのシーン。ぜひ見ていただきたいです。
この後には、これだけでは飽き足らずなんとハリウッドに劣らぬカーアクションも見せてくれちゃいます。
前半はまさに、息も止まるジェットコースタームービー。
ショッピングモール屋上の人間関係描写
後半は原作7.8巻に相当するショッピングモール編。ゾンビ映画おなじみのショッピングモールに舞台を移すのですが、これまたおなじみの人間vs人間という展開に。
たしかにベタでありふれた展開ではありますが、キャラ1人1人が漫画を踏襲しつつも現実に落とし込んでいて、言葉に言い表さない嫌味っぽさ、俗っぽさが見え隠れしていてとてもGOODです。
特に吉沢悠さん演じる「伊浦」。
漫画から出てきたと思わせるぐらいの再現度は必見。
表向きは勝ち気だけど、守りたくなるような女性らしさも秘める人物「薮」も、長澤まさみが好演しています。
ロッカーの葛藤シーン
ショッピングモール屋上で色々あり、ZQNが巣食うモールへ食料調達作戦に向かいます。
トンカチ🔨のみというモンハン装備なし縛りプレイ愛好者もびっくりの軽装備で参加させられた英雄は、案の定ピンチに。
ビビり散らした英雄はロッカーの中に隠れるのですが、ここでの葛藤シーンが素晴らしい。
「怖い。でも行かなきゃ…でも怖い…」と葛藤を重ねる彼は、ロッカーから飛び出したときのシミュレーションをするのですが、どうしてもZQNに喰われてしまうイメージしかできない。
何度も繰り返される葛藤、シミュレーション。
一歩が踏み出せない英雄ですが、偶然落ちていた通信機から聞こえた薮のSOSで、遂にロッカーを飛び出します。
この場面の葛藤、そして漢の決断のシーンが凄く好きです。ロッカー内の鏡に映った自分を見たときの何とも言えない表情もいいですね。
英雄、初発砲シーン
作戦開始時に銃を取り上げられていた英雄ですが、所有者が死んだ事で銃を取り返します。
法律や人に向けて撃つ戸惑いなどで、引き金を引けなかった英雄ですが、守りたい存在(薮、比呂美)のために満を持して発砲。
当然ですが、日本では銃刀法により銃の所持を認められていません。
そんな日本を舞台にしてるからこそ、この映画では「銃」という存在がより大きなものになっています。
それまで1時間30分に渡って見てきたのは、鉄パイプや金属バット、エアガンでZQNと対峙する人間たち。
舞台が日本であるならば当然ですよね、銃なんてそうそう手に入らない。
そこに正に満を持して銃の登場ですよ。
アガらない訳がない。
もし序盤からバンバン発砲してたら個人的には駄作でした。
また原作ファンとしては「はーい」が再現されていたのもポイント高。
「はーい」ってなんだよってツッコミは無しです。
ラストの無双
薮と比呂美を救出後、逃走を図る英雄ですが、出口に繋がる通路でZQNの大軍に挟み撃ちになってしまいます。
もうダメかと落胆する一行でしたが、英雄の目は死んでません。
「(弾)あるだけ倒します」と言い切って弾を装填する姿は男でも惚れそうになります。
銃について詳しくないので名称が出てこないのですが、「空になった銃弾を抜いて新しい銃弾を装填する動作」。慣れてる人はこれがめちゃくちゃ早いんですが、超カッコいいんだこれが。
100匹以上はいるZQNを撃って撃って撃ちまくります。日本映画とは思えないスケール感。(撮影は韓国らしいですね、日本では許可が降りないだとか)
原作では屋外の橋の上でこのシーンにあたる展開があるのですが、映画では狭いトンネルのような通路になっています。
舞台を狭くしたことで、映像的にも迫力が出るし絶望感も増長。
素晴らしい改変だったと思います。
太ってるZQNに欠損してるZQNなど、ZQNのバリエーションが豊かなのも良い。
英雄(ヒーロー)
100体近くの全てのZQNを撃退した英雄を見て、比呂美は「ヒーロー…」と呟きます。
薄暗いトンネル(通路)の中、逆光を背に浴びる姿は正にヒーロー。そりゃ有村架純も思わず呟いちゃいます。
ちなみに原作では、薮と比呂美は自ら危機を乗り越え、孤軍奮闘している英雄を車で助けるという立場。
むしろ比呂美を守り抜いたのは薮で、英雄も薮に助けられたという印象ですね。
物語終盤の改変がこの映画では非常に光っています。
ショッピングモールを車で脱出したところで物語は幕引き。
物語序盤、自ら名乗るときに毎回「『えいゆう』と書いて英雄と読みます」と言っていた英雄。
物語ラストで薮に名前を聞かれますが、「鈴木英雄、ただの『ひでお』です。」と名乗ります。
本当のヒーローは自分でヒーローと名乗らないんですね
【賛否ある点】
全体的には120点満点の今作ですが、個人的にはどうかな…?という点もほんの少しだけ。
まず比呂美のZQN化
物語が中盤に差し掛かる頃、実は赤ちゃんZQNに噛まれていた事が判明し、比呂美はZQNになってしまいます。
ところがなぜか比呂美は完全にはZQN化せず「半ZQN」という存在に。
ゾンビモノだとよくありますよね。
抗体を持ってたり特殊な体質で完全にはゾンビ化しないキャラ。
原作ではショッピングモール編後、「クルス」という存在が登場し、比呂美の半ZQN化にも理由が出てくるのですが映画では最後まで半ZQNのまま。
半ZQNどころかZQNの詳細すら明かされないので、比呂美の存在がよく分からないまま物語が進み終焉を迎えるという感じになっているんですよね。
比呂美をより弱い存在(守られる存在)として描きたかったというのも分かるのですが(半ZQNになった比呂美は基本寝たまま)、元々が女子高生なのでピンピンしている状態でも、守る対象としては十分なのではと思ってしまいます。
原作には続きがあっても映画化するなら一本の映画内で話を完結させる。
というのが筋だと思うので、比呂美の半ZQN化は無くてもよかったのでは、というのが個人的な意見です。
ポスター、予告がダサい
契約の都合上、出演者の顔を載せなければいけないという制約もあり、「邦画のポスターはダサい」というのは一般常識ですよね。
今作はメインの登場人物も少ないため、そんなに画がゴチャゴチャしている印象はないのですが、かっこいいかと言われるとうーーん…という感じ。
ちなみに海外版のポスターはこれです。
これでいいじゃん!!
あと予告が妙にハイテンションであまり好きじゃないです。
たしかにエンタメ要素の強いホラー映画ではありますが…
以上が賛否ある点ですが、こんなのは些細なこと。ほぼ良い点しか無い化け物実写映画です。(ゾンビモノだけに)
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- 日常→パンデミックの緩急
- ZQNがちゃんと怖いか
- 発砲お披露目シーン
前回の記事で書いたかぐや様と対象的に、注目すべき3つ全てが高水準の完成度になってる大当たり映画。
「実写映画が原作を超えることなんて無い!」
と(大して実写映画も見てないくせに)豪語する輩がいますが、個人的にこの映画は原作を超えていると思っています。
少なくともショッピングモール終盤は神改変です。
原作再現度 9/10
映像 10/10
ストーリー 8/10
改変・オリジナル要素 5/5
原作ファンおススメ度★★★★★
日本映画屈指のアクションホラー映画「アイアムアヒーロー」
原作ファンもそうで無い方もぜひ和風パンデミックを体験してみてください!!